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高松高等裁判所 昭和43年(う)193号 判決 1969年4月30日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、記録に編綴してある弁護人大西美中同近石勤共同作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

論旨第一点(事実誤認)について

所論は本件酒食の饗応は、公職選挙法一九九条の五の規定によつて許容された行為である。すなわち本件酒食は「衆議院議員加藤常太郎後援会」の仲多度、善通寺支部内の単位部落の発会式で、祝儀の意味で提供したものであり、一人前約二九〇円相当の通常用いられる程度のものであり、これをもつて投票を買収するなどはとうてい考えられず、本件は選挙運動とは何ら関係がないのに、これを有罪とした原判決は不当であるから、これを破棄して無罪の判決をされたいというにある。

よつて記録を調査し、原審ならびに当審での事実取調の結果を総合考察するに、本件行為がなされたのは昭和三八年一〇月五日であるが、同月二三日に衆議院は解散になり、同月三一日に選挙公示が為されたものであつて、本件行為の当時すでに右の事態が予想されて、選挙運動が始つていたことは、被告人の検察官に対する供述調書(記録三、二〇七丁)によつて明らかであり、本件酒食の饗応がいずれも加藤常太郎後援会発会の式場で為され、これを受けたものは全て当該選挙区の選挙人であること、その他饗応の程度、その態様に照らして、本件は加藤常太郎の当選を得しめる目的で為されたものであり、これが公職選挙法上許された行為とはとうてい認められない。従つて事実誤認に関する所論は採用できない。

論旨第二(量刑不当)について

所論は被告人に対する原判決の量刑が不当に重いというのであるが、一件記録、原審で取調べた証拠を調査し、当審での事実調の結果を総合考量するに、本件は解散の直前に、選挙人一四九名を九に区分して饗応し、買収の実効を期した点、行為の態様、罪質はよろしくなく、被告人の性行、経歴等有利な情状を考慮しても、本件行為が選挙の公正を害した結果、その他諸般の量刑の資料を検討すると、被告人に対し懲役四月執行猶予三年の刑を科した原判決は相当であり、これを変更されたいとする本件控訴は理由がない。

よつて刑事訴訟法三九六条に従つて主文のとおり判決する。

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